「制作工程 ①」、「制作工程 ②」、「制作工程 ③」、「制作工程 ④」、
「制作工程 ⑤」、「制作工程 ⑥」、「制作工程 ⑦」、から続きます。
もっとも緊張する「顔描き」を終えた人形たち。
ようやく完成が見えてきました。
でも「何か足りない感じ」、しませんか?
そう、やはり人形も人間と一緒、「髪の毛」がないと、落ち着きません。
そこで、「髪の毛をつける」のか、「髪の毛を描く」のか、
それとも「頭に何か着ける」のか、人形全体の雰囲気を見て決めます。
人間と同じ、ひとりひとり個性がある人形、
それを作品としてどう仕上げるか、大事な選択です。
それぞれの顔だちを見ながら、全体を見ながら、
また、完成した姿を想像しながら、じっくり考えます。
「髪付け」と「毛描き」を済ませました。
ひとつは烏帽子っぽいものをかぶせてみました。
ちなみに髪の毛は「撚る前の絹の生糸を黒く染めたもの」を使用しています。
江戸時代には「人毛」を使うこともあったのですが、
現代ではそういうことはありません。
「毛を描く」場合は眉毛と同様、筆に薄い墨を含ませ、何度も描いていきます。
赤いリボンのような「水引」がワンポイントとなり、いい感じです。
でも、まだ「何か足りない感じ」、しませんか?
そう、やはり人形も人間と一緒、 「服」を着ないと落ち着きません。
ということで、次は「衣装着け」です。
これも人形の持つ雰囲気を見ながら、
どんな色の、どんな衣装を着せるのか熟考します。
今回の衣装は今年95歳になったおばあちゃんに縫ってもらいました。
人と違い、小さな人形の衣装は縫い目も細かく、
また寸法のわずかな違いが仕上がりに大きな違和感をあたえてしまいます。
申し訳ないことですが、今回も何度も縫い直してもらい
満足いくものに仕上げてもらいました。感謝・・・
ということで、ようやく「衣装着け」が終わりました。
これでもう恥ずかしくありません。
このあと、いよいよ晴れの舞台に出ていきます。
あ!でもその前にもうひと仕事。
何か持った方が「カッコいい」場合、何か持たせます。
実はこれ、完成を目前にして結構手間のかかる仕事なんです。
「持物ぐらい、もともと作っておけばいいのに・・・」と思われるかも知れませんが、
やはりこれも人形が完成して全体の雰囲気を見てからでないと
決められないこだわりの部分なんです。
先ほどの衣装と同じく、小さな人形の場合、
持物もわずかな長さや大きさの違いが、大きな見栄えの差となってしまいます。
ああでもない、こうでもない、と言いながら、最後の仕上げです。
ということで、ついに完成しました!
今までの苦労が報われる瞬間です。
「どんなポーズにしようか」、「何を着せようか」、「何を持たせようか」、
色々と考えた末にようやく完成した人形たち。
この人形たちがどんなふうに迎えられるか、
いよいよ、もっとも楽しい瞬間がやってきます。
展覧会は子供の学芸会を見に行く心境ととても似ています。
最初の工程、「粗彫り」から完成まで順を追って、ようやくここまできました。
ここにくるまでおよそ1年。
伊東家ではだいたいこのようなサイクルで人形を作っています。
とにかく作品は完成しました。
登山でいうと「10合目」、頂上です!
と、言いたいところですが、あともうひとつ大事なことが残っていました。
それはできあがった人形に「名前をつける」ことです。
これがまた、なかなかむずかしいんです。
人形の持つ雰囲気を見ながらよーく考えます。
すぐに決まらない場合は、ちょっと休憩してから、
それでも決まらない場合は一晩寝てから。
代を継ぐまでは・・・と、名前はかなり自由に付けています。
この人形は「わんぱく」と決めました。
「わんぱく」と決めたら、もう「わんぱく」にしか見えないのが不思議・・・
今度こそ本当の完成!
思いがけず、長い記事になりました。
伊東家の御所人形はこんな風にしてやっと、晴れの舞台を迎えるのです。