
高盛金彩絵 吉祥羽子板
京都の伊東家は、有職御人形司として代々朝廷の御用を承ってきた由緒ある家柄である。伊東久重氏はこの伊東家の十二代当主として、御所人形の制作や、古い人形の復元、修理などに優れた技量を発揮しているが、その制作に当っては、すべて自ら設計、計画し、全工程にわたり自ら手を下し創り上げていく。
つまり人形作家としての独創性、芸術性と、それを一つの人形にまとめ上げる職人的な高度な技術を兼ね備えた珍しい存在といえよう。
いうまでもなく、その作品は古い時代の名品に比して些かの遜色もない。

高盛金彩絵 華の小槌
この度、伊東氏は人形制作における経験を活かして、桐材を用いた筥や羽子板、小槌などに胡粉の置き上げ彩色を施したものを試みている。
木地の肌へじかに顔料で文様を施した彩絵の筥や台は、奈良時代に作られたものが今日正倉院に数多く伝えられているが、この伝統はその後宮中に伝わって、木地に胡粉や金銀泥、絵具で優雅な文様を描いた筥や折敷、台などが有職調度として作られ、用いられてきた。

高盛金彩絵 桜の絵飾筥
伊東氏は、このような有職風な伝統の基盤の上に、近世以降に発達した御所人形の精細な胡粉の技術を新しい形で開花させたのである。
こぼれるように豊かな文様が描き出される胡粉高盛金彩絵は、完璧な技術に裏づけられたいかにも京都風なあでやかさと気品の高い雅致を備えている。
長い年月を経た優れた伝統工芸がさらに次の時代へとその命をつないでいく。
創造の神聖な魂を見る思いである。

高盛金彩絵 立雛
文 ・ 山邊知行 やまのべともゆき (1906~2004)
昭和~平成時代の染織研究家。明治39年10月27日生まれ。
京都帝国大学卒業後、東京帝室博物館(現東京国立博物館)に勤務。
退官後、多摩美術大学教授、遠山記念美術館館長などをつとめた。
日本、インド、インドネシアの染織品や人形の蒐集家としても知られた。
著作に「能装束文様集」など