「制作工程 ①」、「制作工程 ②」、 「制作工程 ③」、
「制作工程 ④」、「制作工程 ⑤」、 「制作工程 ⑥」、から続きます。
「胡粉塗り」と「ぬぐい」を終えた人形たち。
いよいよ、もっとも緊張する「顔描き」を迎えます。
「制作工程 ②」でもふれましたが、
目や口の位置はすでに「上彫り」の段階で決まっており、
この「顔描き」で位置を変更することはできません。
「上彫り」の時に、その点をしっかり考慮しておかないと、
ここで 「思いっきり」 後悔することになります。
墨を擦りながら、心落ち着かせて精神統一・・・
まず、目から描きはじめます。
筆先に神経を集中して、慎重に・・・
最初は薄い墨から、だんだんと濃い墨に変えていきます。
人と違って小さな人形は1ミリのずれ、
いや、筆のわずか毛先一本のずれや、太さの違いで表情が大きく変わります。
もちろん墨なので、失敗したからといって消すことはできません。
はじめの頃は緊張で手が震えましたが、
最近はようやくそういうこともなくなってきました。
目を描き終えたら次は眉。
薄い墨を、これも筆の毛先一本を使って何度も描いていきます。
眉は唯一、「顔描き」の段階で位置を決める部分なので、
目や口とのバランスを見ながら、慎重に描きすすめます。
最後に赤で口を描きます。
これまでの白と黒だけの世界に赤が入ったとたん、
人形に血が通ったような気がします。
命が吹き込まれた、と感じる瞬間。
うれしい瞬間です。
最大の難関、「顔描き」が終了しました。
伊東家では御所人形を約一年かけて作り上げるのですが、
その工程中、「一息つける瞬間」というのはなかなかありません。
その数少ない「一息つける瞬間」がこの「顔描き」を終えた瞬間です。
このあと「髪付け」または「毛描き」、そして「衣装付け」が待っています。
作品の完成まで、登山でいうと「8合目」ほどの地点です。
ちなみにこの道に入ってからあらゆる筆を買い、試してきましたが、
昨年やっと「この一本」というのを決めました。
悩みに悩んだ末に決めた「この一本」、それは結局、父と同じものでした。
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