上彫りができた人形は、このあと「胡粉塗り」に入ります。
しかしその前に、地味ですが、欠かすことのできない工程があります。
それが「紙貼り」です。
貼っているのはむこうが透けて見えるほど薄く、
少し揉むだけで毛羽立つようなやわらかい紙。
桐と胡粉をなじませ、つなぐ、大事な役割をはたします。
紙に何か書かれているのがわかるでしょうか?
「紙貼り」には現代の紙ではなく、昔の和紙、
具体的には役所の帳簿や商家の大福帳などを使います。
今使っている紙には「明治拾八年」、「紀伊國和歌山區」と書かれています。
どうやら土地の登記簿のようです。機密文書では・・・?
ところで、127年も前の紙をわざわざ使うのには、訳があります。
古い和紙には粘りがあり、糊の浸透がよく、桐と胡粉との相性が抜群なんです。
実はこのような古い紙は、現在では日本中探しても簡単には見つかりません。
どこかで、「出物がありました。」と聞くと買いに走ります。
おかげで伊東家では、百年先ぐらいまでの分はすでにストックしてありますが、
これもいずれ手に入らなくなってしまうものなのかもしれません。
ともかくこの地味ながらも、実は大事な工程、「紙貼り」を経て、
いよいよ「胡粉塗り」に入っていきます。
はりきって書きましたが、
この「紙貼り」の工程は全体から見ると、ほんのひと手間。
作品の完成まで、登山でいうと「3合目でひとやすみ」ぐらいの感覚です。
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